【2016年11月1日】
『いい音爆音アワー』にこめる想い。なぜ今「レコード・コンサート」なのか?
往年のビッグ・ネーム・バンドが再結成してはツアーで稼ぐ、というのが大はやりですね。チケット代はどんどん高くなって今や2万円近いのが当たり前になってしまっていますが、それでも動員は、中高年の音楽ファンを中心に好調のようです。
どうしてなんでしょうね?
たいていのヴィンテージ・アーティストはもう還暦も越えて、お腹もたるんで、動きも鈍くなったおじさん&おばさんたち。ミックやポールはたしかに元気だけど、やはり20代の頃の輝きにはもう比べるべくもありません。なのに東京ドームを何日もやれるほどたくさんの人が足を運び、その人たち自身も鈍った身体に鞭打って、総立ちして、盛り上がっています。
もちろん悪いことではありません。私だって、ポールもストーンズも行きました。さすがにボーカリストが代わってしまったクイーンやジャーニーやイエスは行く気がしないですが。でもそういうバンドも大枚はたいて観に行く人たちはえらいなーと思っています。
でも、思うのです。だったらもっとレコード音源(広い意味で録音音源という意味で)もだいじにしようよと。
レコード音源は、老いたミュージシャンたちもいちばん輝いていたころに、そのエネルギーを全開にして作り上げたものです。さらにそこにはプロデューサーやエンジニアの才能やエネルギーも合体しています。今の彼らには絶対再現できない音の結晶みたいなものがLPやCDには刻みこまれており、それは再生装置があればいつでも再現可能なのです。
いや、「いつでも再現可能」だから有難みを感じないのかもしれませんね。片やライブは一期一会。このアーティストのこの瞬間を共有しておかないと、と思う心理。これもわかります。
しかし、「いつでも可能」なのは、パソコンの小さなスピーカーやiPhoneから圧縮音源をイヤホンで聴く、あるいはせいぜい家のミニコンポでCDを、隣の部屋や家を気にしながら、控えめな音量で聴くことくらいではないでしょうか?
レコード音源は、いいオーディオ環境で、耳だけでなく身体に音圧を感じながら聴きますと、ものすごく魅力的なホントの姿を見せてくれます。まぁ「いいオーディオ環境」ってどういうものなのかスパッと定義できないところはクセモノだったりするのですが、ともかく、レコード音源をいい音でそして大きな音で、自宅で聴ける人なんてほんの一握り、外へ行ってもそんな場所、なかなかありません。ロック・バーと呼ばれる店はあちこちにありますが、たいていは音量が小さいですね。昔のロック喫茶やジャズ喫茶と呼ばれた場所は爆音でしたけど、今はそういう店は流行らないのでしょう。
つまり、一期一会のライブも貴重でしょうが、レコード音源をちゃんと聴くことができる機会というものは、実はそれ以上に貴重なものかもしれないのです。
私が『いい音爆音アワー』と題して、いい音楽を、いい音&爆音で聴く会を始めたのは、そんな考えがあってのことです。
2010年12月から、下北沢の音楽カフェ「風知空知(ふーちーくーちー)」で月に一度、「ナイスなイントロ」、「ナイスなグルーヴ」、「ナイスな邦題」などから「ドラマー特集」、「ベーシスト特集」、あるいは「ギター・ソロ特集」、そして「雨の歌特集」、「色と音楽」、「数と音楽」、また「2拍3連特集」などなど、何らかのテーマに沿って、ロック&ポップス中心に古今東西の名曲・名音源を選曲し、簡単な解説をはさみながら、聴いていただいております。
毎月やっていますから既に70回を越えました。また、銀座近くの新富町、「on and on」というスペースでは、アナログ・レコード限定の『いい音爆音★AA会』というのを2015年12月から、これも月一回開催しています。
残念なのは、このイベントにいらっしゃる人が少ないことです。2万円も使って、2時間以上も立ちっぱなしで、おじいちゃんたちのライブを観にいく人が何万人もいるのに、入場無料の『いい音爆音アワー』には20人くらいしかいらっしゃいません。
グチのように聞こえるかもしれませんが、そうではなく、「レコード・コンサート」の貴重さ、おもしろさに気づいてない人が多いのではないかと懸念するのです。私自身がいい音楽をいい音&爆音で聴くことに無上の喜びを感じておりますので、このイベントはお客さんが少なくても、誰もいなくても(笑)、やっていこうと思っていますが、この喜びを共有できる人が少ないことは、やはりどうにも残念なのであります。
もう一度要点を整理してみます。
①ヴィンテージ・アーティストのライブ=一期一会(◯)、入場料高い(☓)、パフォーマンス衰えてる(☓)
②ヴィンテージ・アーティストのレコード・コンサート=実は貴重(◯)、入場料安い(◯)、最高のパフォーマンスが蘇る(◯)
どちらを選ぶということではありません。ただ、②はいい事づくめなんだというところに気づいていただければ幸いであります。
レコード音源には、まだ貴方の知らない魅力がいっぱい隠れています。
【2011年12月14日】 エレキギターが好きなんです。
いやー早い!『いい音爆音アワー』も2年目に突入しました。益々(自分が)楽しくなってきたので、まだまだ続けますよー。ほんとは月一回じゃなくて週一回でもいいんだけど、そんなことしたらこれの仕込みのために会社の仕事をやる暇がなくなるので、我慢してます(笑)。定年後は週一かもね。
さて今回のテーマは「ギター・ポップ」。前回が「リフ」だったので、ギター・リフの曲も多く、なんとなくテーマ的には近くなってしまうのですが、世の中いろんな楽器がある中で、一番好きな楽器は何かと言われたら、私はギターなんですよ。だからギターをフィーチャーした曲は好きなのがいっぱいあります。
ただ、私はドラムをやるんですが、なぜかギタリストになろうと思ったことはないですね。あくまでリスナーとして。大学の時にちょこっとフォークギターで「3フィンガー」とか練習したことはありますが、すぐ止めてしまいました。弾ければ聴き方ももっと深くなるかもしれませんが・・・。
特にエレキ・ギターが好きです。
エレキ・ギターとアコースティック・ギターとは別物と言ってもいいかもしれませんね。たとえば、エレキ・バイオリンだったらバイオリンの電気仕掛けバージョンに過ぎないけど、エレキ・ギターは独自の世界です。そして「エレキ」の力を使っていろんなことができるのが魅力です。メーカーや機種によって音の個性が違うし、組み合わせるアンプによっても音が違ってきます。エフェクター類を使うともうほんとに様々な音色を出せます。
とは言え、ギター自体はそもそも「弓」に行き着くというくらい大昔からある楽器ですから、どういう演奏ができるかはプレイヤーのテクニックと感性のたまもの。「エレキ」の力はそれを広げるだけです。プレイヤーががんばればどんどん可能性が広がるし、プレーヤーがダメならでダメさ加減が強調されます。プレイヤーの個性がいちばんはっきり出る楽器じゃないでしょうか。
この適度な科学技術と職人芸のバランスがいい感じなんですよねー。
エレキ・ギターのおかげでロック・ミュージックが生まれたと言っても過言ではないでしょう。その後にシンセやシーケンサーが出てきてテクノ・ミュージックが生まれるように、新しい楽器が新しい音楽を生むことがあるわけですけど、ロック・ミュージックの誕生は音楽史の中でも最大の事件だったんじゃないかと私は思っています。その立役者がエレキ・ギターなのです。
というわけで「ギター・ポップ」特集なんですが、当然、ロックの世界に広げるとキリがないので、今回はなるべくロックではない「ポップス」をいろいろ選んでみました。お楽しみいただければ幸いです。
いい音楽を爆音で。音楽の神様に対面する夜。
【2011年10月12日】 追悼!Steve Jobbs
「巨星墜つ」という表現をたまに見ますが、10月5日、ほんとに巨大な星が、あまりに早く墜ちました。
スティーブ・ジョブズ氏は1955年2月24日生まれ。小生は1954年10月29日生まれ。日本流で言うと「同学年」なんですよねー。だから何?って言われると何もないんですが、国は違えど、同世代として、ビートルズの活躍やベトナム戦争、アポロの月面着陸なんかを少年の目で見て感じて育ってきたわけですから、勝手に親近感を持っていました。
初期のMacは高くて買えませんでした。50~100万円近くしましたからね。日本語に弱かったので仕事には向いてなかったし。でも知人の「plus」を少しさわってみて、全体のデザインのよさ、白黒ディスプレイなんだけど絵が簡単に描けてそのグラフィック表現能力が高いこと、「CHICAGO」フォントの美しさ(あれがMacのイメージでしたね)などなど、その時代の他のパソコンとは根本的に違うその存在に、とてもワクワクさせられた記憶があります。
ジョブズ氏は、そんな、人にワクワク感をもたらしてくれるようなモノやサービスを、いつも夢見ては実現させる、それが何よりも好きだったんでしょうね。
夢見ることは簡単だけど、実現させることはたいへんです。自分一人で完結できる、たとえば小説とか作曲というようなことならばともかく、大勢の人が関わるハード製品を、しかもMacのようなイノベーティブなモノを、自分が思うような完成度で実現するのは、ほんとにパワーがいることだと思います。
違う意見を持った人たちにも協力を得なければなりません。頑固な人もいるし性格が合わない人もいるでしょう。当然ぶつかることも多々あるでしょう。
創設者であるジョブズ氏が、Macの1号機を完成させたあとまもなく、経営を混乱させたとしてAppleを追われたのも、彼が自分の理想の実現に妥協を許さず、人とぶつかりまくったのだと想像できます。創設者を追い出したのですから相当だったんでしょうね。
でもジョブズ氏のそのパワーがあったからAppleの今日があるわけです。
ゼロックス・パロアルト研究所で見た、マウスを使ったGUIがMacの元になっていくわけですが、ゼロックス社はそんな先端技術を持っていたのにそれを活かせなかった。それを活かし、様々なハードルを乗り越えてMacという魅力的なモノに仕上げるのは、ジョブズ氏のような人がいなければ絶対無理だったと思います。
音楽制作や映画制作の世界でも同じことです。今までになかった楽しいものを作ろうという気持ちは誰もが持っているでしょうが、やはり人それぞれ考えは違う。ビジョンがあいまいだったり、意見の対立を妥協で解決したりしていては決していいものはできません。
いいものを生み出すために、みんなジョブズ氏のようにがんばっているか?こだわっているか?こだわらなければ音楽業界に明るい明日は来ないような気がします。
【2011年9月14日】 「いい音楽」って何?
「いい音楽」って言葉をしょっちゅう使ってしまうけど、何が「いい音楽」なのかと訊かれると困ってしまいます。
「いい音楽」という概念に客観的な基準はありません。人によっては評価基準があったりするかもしれませんが、共通認識はありません。聴く人がいいと思ったらそれは「いい音楽」。だからアメリカで1位の曲が必ずしも日本でも受けるとはかぎりませんし、逆に日本だけでヒットした洋楽も多々あります。
概念としては「おいしい食べ物」なんてのに似ているかもですね。誰もがよく使うけど、ひとそれぞれ。個人の感覚・感性によるところが大きい。たとえば小生はホタテの貝柱がちょっと苦手。嫌いというほどではありませんが、「おいしい」とはどうにも思えません。
ただ、まるでバラバラかというとそうでもありません。多くの人が「いい」、「おいしい」と思うモノは、やはりある程度理解できます。「日本人好み」なんて言葉があるように、遺伝子や環境が感覚・感性には大きく作用するのでしょう。
だから、ヒット曲というものも生まれてくるんでしょう。
ただ、ヒットする音楽が「いい音楽」かというと、そうとは言えないと思っています。売り方の問題はもちろんありますし、作品そのものにも、広く多くの支持を集めるのタイプもあれば、とっつきは悪くてもはまると深いタイプもあります(もちろんその中間もいっぱいあります)。大きくヒットはしなくても後者の方が世の中には影響が大きかったりもします。小生にとっての「いい音楽」はやはり後者が多いですね。
音楽業界は当然ながら常にヒットを目指していますから、前者を追求します。余裕があったころは後者にもある程度投資して、ロングセラーになってよかったみたいなこともありましたが、現代は長期不況時代ですから、特にメジャー各社は前者のみです。「いい音楽」なんてメジャー・レコード会社の中では禁句です(笑)。
『いい音爆音アワー』でご紹介する音楽は、小生が「いい音楽」だと感じるものに限っています。業界がこのような状況である以上、やはり古いものが多くなるのはしかたありません。しかし、そんな逆境にもめげず、しっかり「いい音楽」を創ってくる音楽家もちゃんといるのです。
各回のフィーチャー作品はそんな現在進行形の「いい音楽」たちです。今回取り上げる”Nabowa”も「いい音楽」をまじめに追求している、将来の音楽文化を支えてくれそうな若手音楽グループです。
【2011年7月20日】 「いい音」は計算できない